アーカイブ マンガに耳を澄まして - 音楽マンガ展 -

《第4楽章》



ごあいさつ /監修者:西除闇(にし・じょあん)プロフィール / コーナー説明/ 会期 / 謝辞

※第1楽章「ごあいさつ ・監修者:西除闇(にし・じょあん)プロフィール ・コーナー説明・ 会期 ・ 謝辞」と同じ



特別コーナー: 音楽マンガとしての「迷走王ボーダー」

◆Sケース展示

第1楽章解説と同じ


◆中央・覗き込みケース展示

第1楽章解説と同じ



◆壁ケース

第4楽章:ジャズ、ブギウギ、ブルース、比喩、他

《ジャズ》

No.01
BLUE GIANT(ブルー・ジャイアント)

石塚真一
*連載
《展示品》小学館 ビッグコミック 2013年24号(12/25)


【監修者解説】
仙台の高校生・大(だい)は、ある日ジャズを聴いたことをきっかけにサックス奏者を目指します。高校生というやや遅い年齢で音楽に目覚めた少年が初期衝動を忘れずに世界に進出する様は、作者の「ジャズは(日本における懐古的なイメージではなく)若者が思い切りやる激しい音楽である」というメッセージを表しているのではないでしょうか。

No.02
坂道のアポロン

小玉(こだま)ユキ
*連載
《展示品》小学館 月刊フラワーズ 2009年9月号


【監修者解説】
転校生の薫は、自分と正反対のバンカラ少年千太郎と出会ったことをきっかけに、ジャズの楽しさを知ります。1960年代の長崎県佐世保市を舞台に、友情や恋が錯綜しながらも、ジャズをプレイすることで心を通い合わせる高校生たちの、爽やかな青春ストーリー。

No.03
カ・ム・バ・ッ・ク・ア・ナ・ロ・グ

ラズウェル細木
*シリーズ連載の1話
《展示品》双葉社 コンプリート・ジャズ・コミック・コレクション 1992年12月1日刊


【監修者解説】
『ジャズ批評』(ジャズ批評社)1986~2000年連載の「ときめきJA」は、まるで穴場の小料理屋で出されたおつまみのように味わい深いです。金にならないジャズ喫茶の悲哀や、演奏に挑戦した時の失敗談などが軽妙な語り口でテンポよく進みます。読み進めるうちに「サキコロ」が何の略だか分かり、自分もジャズ通になった気分になるでしょう。



《ブギウギ》

No.04
スインギンドラゴンタイガーブギ

灰田高鴻(はいだこうこう)
*連載
《展示品》講談社 モーニング 2020年21・22合併号 (5/7・5/14 )


【監修者解説】
主人公のトラは、姉が慕うジャズベーシストを探しに福井から上京。天性の歌声をもつ彼女は再会したベーシスト小田島とバンドを組み、芸能界を目指すことに。第二次世界大戦敗戦直後の混沌とした空気に活気を与え、現在につながる芸能界のルーツとなった大衆音楽としてのジャズを、本作は生き生きと描いています。



《ブルース》

No.05
ラグタイムブルース

石渡治(いしわたおさむ)
*連載
《展示品》小学館 週刊少年サンデー増刊 1980年1号(3/25)


【監修者解説】
ニューヨークが序盤の舞台であるにもかかわらず萩原朔太郎の詩が引用されたり、明朝体の重い字体で心情が語られたりと、昭和独特の土臭い熱気が立ち込めていて、それが余計にブルースの悲哀を引き立てます。1980年頃、少年誌ではほとんど音楽マンガの無かった時代にブルースをテーマに連載された異色作です。

No.06
ブルーブルーそしてブルース

榎屋克優(えのきやかつまさ)
*連載
《展示品》双葉社 アクションコミックス1巻 2023年3月9日刊


【監修者解説】
令和の最新ブルースマンガです。うだつの上がらない若きサラリーマンがある日悪魔と契約して、40年の寿命と引き換えに憧れのブルースマンと人生が入れ替わります。戸惑いながらも徐々にブルースの心に肉薄していく主人公と、生れて初めての社畜生活をのらりくらりとこなす老練ブルースマンの対比に注目です。



《レベティコ》

No.07
レベティコ-雑草の歌

ダヴィッド・プリュドム
*読切
《展示品》サウザンブックス社 サウザンコミックス2020年10月8日刊


【監修者解説】
1930年代ごろからはじまったギリシャの大衆歌曲レベティコ。第二次世界大戦直前という時代を背景に、マルコスたちは、酒、クスリ、暴力、当局からの検閲にまみれつつ下層階級の日常を生きています。彼らの演奏を録音したいとアメリカのレコード会社が申し出ても、「そこに現実は無(ね)え」と突っぱねる男たちの、なけなしの美学と音楽が全編に響きます。



《ファド》

No.08
ROCA 吉川(きっかわ)ロカ ストーリーライブ

いしいひさいち
*連載および描き下ろし
《展示品》(笑)いしい商店 2023年8月1日刊


【監修者解説】
作者の代表作「ののちゃん」と同じ世界線で繰り広げられる音楽物語。主人公のロカはポルトガルの国民歌謡であるファドの歌手を目指す高校生。友人である美乃のサポートと共にステージを重ねます。ストーリーは作者おなじみのギャグテイストで進みますが、思わぬラストが読者をサウダーデ*へと誘います。

*郷愁、憧憬、思慕、切なさなど様々な感情をともなう状態をさすポルトガル語、ガリシア語の単語



《比喩》

No.09
「あると」の「あ」

赤石路代
*連載
《展示品》小学館 別冊少女コミック 1989年2月号


【監修者解説】
盲目のバイオリニストによる演奏シーンです。第3楽章で紹介した「無音の音」に近い表現ですが、そこに存在するはずの無い森が見開きで背景に広がることで、モノローグの通りの「深い」音を表現しています。どんなバイオリンを弾いているかが直観的に理解できる、とてもわかりやすい比喩表現です。

No.10
いつもポケットにショパン

くらもちふさこ
*連載
《展示品》集英社 別冊マーガレット 1981年7月号


【監修者解説】
物語の終盤、ショパンを弾く主人公の手からこぼれ落ちるキャンディは、幼少期の記憶を甘く色鮮やかに象徴すると同時に、ショパンの楽曲のイメージも表しています。本作に限らず、くらもち作品における音楽表現はどれも示唆に富み、読み返すたびに新たな発見があります。

No.11
神童

さそうあきら
*連載
《展示品》双葉社 漫画アクション 1997年15号(4/15)


【監修者解説】
ピアノを主体にして描かれる本作のテーマは、音そのものへの原初的な歓びです。それを第一話で象徴しているのが、この空中乱舞する魚たち。聴覚をどう表現するかも本作の重要なテーマのひとつですが、もし聴覚を視覚に変換することができたなら、日常に潜む小さな感動も、これくらいダイナミックな情景になるのかもしれません。

No.12
アレルヤ

能條純一
*連載
《展示品》小学館 ビッグコミックオリジナル 2006年14号(7/20)


【監修者解説】
雨の路上で弾かれるバイオリンと、傘をさしながら聴き入る男。バイオリンは湿気に弱い楽器なのでこのようなシーンは現実的ではありません。しかし、下から天を仰ぐような構図と、男の手からふわっと離れて光が降り注ぐような傘の描写は、このバイオリンの煌(きら)めく音色を表すために必要としたシチュエーションでしょう。

No.13
ディ・カデンツ

竹坂かほり
*連載
《展示品》集英社 ぶ~け 1982年6月号


【監修者解説】
バイオリンの旋律を月と流砂に見立てた例です。ここまで比喩による音楽表現の例を5作品挙げましたが、偶然にもバイオリンが3作を占めました。残り2作はピアノです。
ピアノは鍵盤を打って音を出す打楽器ですが、張り巡らせた弦を打って音を鳴らす弦楽器であるともいえます。ピアノを弦楽器と捉えるなら、弦の調べには物質に具現化したくなる幻想的な響きがあるのかもしれません。

No.14
はしっこアンサンブル

木尾士目(きおしもく)
*連載
《展示品》講談社 月刊アフタヌーン 2018年4月号


【監修者解説】
合唱シーン。変声期を迎えた主人公の喉(のど)が生々しくクローズアップされます。彼は口パクをしていますが、喉の奥には大人に変わったばかりの低音が蠢(うごめ)いているようです。ちなみに第2楽章で既存曲の引用例を紹介しましたが、本作では引用歌詞のフォントに何重も装飾効果を施すことで合唱の響きを表現しています。

No.15
ワンダンス

珈琲
*連載
《展示品》月刊アフタヌーン 2021年3月号


【監修者解説】
ダンスを主題とした作品ですが、ダンスの描写を通してまるで音楽が聴こえてくるようなので、この項に入れました。会場を包み込む重低音。手足のムーブが旋律となって光の軌跡を描き、弾けると同時にビートが鳴る。音と身体が融けあって新しい生き物になる現象のことを、ダンスと呼ぶのでしょう。

No.16
ROCKS

山下和美
*読切
《展示品》講談社 モーニング 1999年18号(4/15)


【監修者解説】
山下和美作品にも音楽モチーフは多いです。本作は、リストラされた中年男性がサラリーマンという鎧(よろい)をまといつつ長い間守っていたロックの魂を解放する短編です。ラストの演奏シーンで観客が叫ぶ「バーコード立ってるよやっべーよ」という台詞は、正にロックが残り少ない毛髪に宿った瞬間を表しています。

No.17
快感♡フレーズ

新條まゆ
*連載
《展示品》小学館 少女コミック 1997年3号(1/20)


【監修者解説】
少女コミック誌における性描写が過激になってゆく時代の先駆けといえる本作。その音楽描写を見ると、第1話冒頭のライブシーンから既に主人公の女の子が全裸です。本作において重要なのは恋愛描写で、音楽はその引き立て役といえますが、だからこそ、この極めてシンプルな音楽の身体表現が効果的です。

No.18
炎のクイーン

川崎三枝子 原作・滝沢解(かい)
*連載
《展示品》廣済堂 KOSAIDO COMIC PACK 1979年7月10日刊


【監修者解説】
団地建設用地でゲリラライブを行った過激なロックバンドのステージとメンバーの一人を、役所がブルドーザーで圧(お)し潰し殺してしまいます。その復讐に、残ったメンバーが、カラオケで演歌を歌う役所の課長を襲撃。折れたギターで刺した際に飛び散った血が音符に見えて作曲するシーンです。何を言っているか分からないと思いますが、音楽表現の一形態として紹介したい作品なのです。



《花》

No.19
プライド

一条ゆかり
*連載
《展示品》集英社 コーラス 2003年7月号


【監修者解説】
映像化もされ、オペラを題材にしたマンガの代表作と言える本作ですが、今回の音楽マンガ展で取り上げた全作品の中で最も多く花が描かれていました。花はオペラの世界の華やかさを分かりやすく提示すると共に、対照的存在であるライバルとの争いの過激さをより強調する効果を生んでいます。

No.20
蝉(せみ)しぐれ

松藤(まつふじ)純子
*読切
《展示品》秋田書店 プリンセス 1980年9月号


【監修者解説】
おじいさんにピアノを禁止された少女。赴任してきた音楽教師のピアノを聴いたことで、ピアノへの愛を思い出すシーンです。ここで描かれる花は、亡くなったお母さんと行った思い出の丘の上に咲いている花。ピアノを弾く指先から花がこぼれ落ちると共に、母との思い出が次々と流れだす視線誘導が美しいです。

No.21
ふたごのプリンセス

わたなべまさこ
*連載
《展示品》 秋田書店 プリンセス 1975年1月号(創刊号)


【監修者解説】
第1話冒頭からショッキングなシーン。夫がオペラ歌手と不倫して子供を産んだことから錯乱状態に陥る妻の姿。ピアノの音をガンガンと打ちつける容赦ない擬音もさることながら、背景に敷かれたバラとそれらを引き裂く効果線が、狂わんばかりの妻の心情をピアノの痛々しい音と共に、これでもかと伝えてきます。

No.22
笛吹き童子

山岸凉子
*読切
《展示品》秋田書店 ビバプリンセス 1986年12月25日号


【監修者解説】
雅楽頭の跡継ぎとして生まれたにもかかわらず笛が下手なことに悩む主人公は、ある日謎の童子から笛を預かり、修復します。少女マンガにおける花の背景としては、この切り花をまばらに散らすような描き方は非常に独特です。平安に伝わるいわくつきの笛から出る妙音の表現と考えると、想像をかき立てられます。

No.23
愛へのプレリュード

森谷(もりや)幸子
*読切
《展示品》講談社 別冊少女フレンド 1976年12月号


【監修者解説】
冷静沈着で有名な生徒会長の知られざる一面を主人公が偶然見つけてしまうシーンです。バイオリンを弾いている正面の姿はあえて見せず、揺れる葉を窓の外に映します。そして、その音を聴いた主人公のほうに花が咲いています。背中と植物で聴かせる、夜のバイオリンの妙なるしらべです。

No.24
アンサングヒーロー

鯛噛(たいがみ)
*連載
《展示品》講談社 ヤンマガKC4巻 2022年7月20日刊


【監修者解説】
大手レコード会社の社員である主人公が、型破りな歌姫を発掘して世界進出を目指すストーリー。青年マンガでこれだけ多量の花を音楽描写に使用する例は珍しいです。また、思いつく限りのよく知られた花を敷き詰めたような表現は、女性の天真爛漫で無邪気な明るい歌声を容易に連想させます。



《日本の古典》

No.25
ましろのおと

羅川真里茂(らがわまりも)
*連載
《展示品》講談社 月刊少年マガジン 2010年10月号


【監修者解説】
青森出身の作者による、本格津軽三味線マンガ。三味線奏者の祖父の影響を強く受けつつも、自分だけの三味線の音を探すために主人公の雪(せつ)は上京します。三味線甲子園に出たり、そこで得た仲間とユニットを 結成してデビューする中で様々な挫折と喜びを経験しながら、主人公は人間的にも音楽的にも成長を遂げていきます。

No.26
火色の文楽

北駒生(きたこまお)
*連載
《展示品》徳間書店 月刊コミックゼノン2017年6月号


【監修者解説】
ケガで将来を絶たれたバレエダンサーが人形浄瑠璃文楽の世界に飛び込む物語です。西洋の舞踊から日本の伝統芸能へ転身しても、その道を究めようとする者がたどり着く芸事の神髄は同根であることが描かれます。また、語りが全て床本(ゆかほん)(文楽で使われる台本)風の筆文字である点も、音楽マンガの表現として注目です。

No.27
この音とまれ!

アミュー
*連載
《展示品》集英社 ジャンプSQ 2013年2月号


【監修者解説】
箏を題材にしていますが、高校の部活が舞台なので、青春スポーツマンガと同様の熱い展開が非常に馴染み深く読めます。2000年代以降、吹奏楽をはじめとした合奏系部活マンガが一般的になりました。年月をかけて積み上げられたマンガの音楽表現の技術が熟した結果、生まれたジャンルだと言えるでしょう。

No.28
ワールド イズ ダンシング

三原和人
*連載
《展示品》講談社 モーニング 2021年17号(4/8)


【監修者解説】
能楽の創始者、世阿弥(ぜあみ)の物語。日本独自の芸能はどのようにして生まれたのか、大胆な解釈で描かれます。この時代にはまだ西洋音階もビートも存在しません。が、本作のタイトルが示す通り、主人公が体感し思索する世界には人類に共通する「音を出しながらうたい踊ることへの本能的な希求」が描かれています。



《その他》

No.29
わが指のオーケストラ

山本おさむ
*連載
《展示品》秋田書店 ヤングチャンピオン 1991年8号(4/9)


【監修者解説】
耳の聞こえない子供たちに、音楽のように強弱をつけた手話を用いて物語を「聴かせる」教育に挑戦した男性の実話。音の出ないマンガで、音の無い世界の音楽を描くことは、創作的に重い障害を抱えているようなものです。だからこそ、本作を読むと音楽とは何か、音楽マンガとは何かが本質的に理解できる気がするのです。

No.30
緑の歌 ―収集群風―

高妍(ガオイェン)
*連載
《展示品》
KADOKAWA コミックビーム
上段:2021年10月号
下段左:2021年12月号
下段右:2022年5月号


【監修者解説】
台湾の女の子が日本のアーティスト、はっぴいえんどに焦がれる話です。異国の音楽が醸(かも)し出す蠱惑(こわく)的な魅力、限られた情報を集める時のわくわく感、はじめて本場(東京)に降り立った時の興奮。誰もがかつて味わったことのある、好きな音楽への、恋にも似た、胸のつまるような甘い情景がみずみずしく描かれています。

No.31
音盤紀行

毛塚了一郎
*連載
《展示品》KADOKAWA 青騎士 2021年Vol.1(4/20)


【監修者解説】
レコードには、CDにも配信にも無い不思議な魅力が宿っています。本作はその魅力を、古今東西様々なシチュエーションで物語にした短編集。レコードは単体で音が出ません。しかしジャケットを眺めているだけで音や、そのレコードがたどった軌跡を受け取った気分になれるのは、音楽マンガを考える上でも重要な点です。

No.32
レコスケくん

本秀康(もとひでやす)
*連載
《展示品》ミュージックマガジン レコスケくん 20th Anniversary Edition 2016年12月20日刊


【監修者解説】
レコード収集というと大人の趣味というイメージですが、本作で語られるレコードのあれこれは細かい話ばかり。例えば「レコード屋の200円OFFセールで一番お得感があるのはどのレコードか」といったような、楽天ポイントレベルのつましい会話が延々と続いて、レコードコレクターの世界が親しみ深く語られます。




◆壁展示

1期解説と同じ